この本は死産を体験した井上文子、修一夫妻が第一子「和音」ちゃんを死産で亡くし、そしてその後、第二子、和音ちゃんを同じ病院で出産した経験を、井上夫妻、病院の長谷川充子師長の手記、や竹内正人医師を交えた座談会などを通して綴った本。死産をめぐる両親の体験や、現在の周産期の死をめぐる課題が解る、どちらかというと医療関係者向けの書籍です。
産婦人科医の竹内正人さんは産婦人科医として「救う」「助ける」で医療にかかわるうちに、「救えなかった子どもたちとその家族」に視線を移し、2006年、ホーリスティックな医療を行う「東峯ヒューマナイズドケアセンター・ラウンジクリニック」を開設。生まれた赤ちゃんの生死だけでなく、その生が父母の元に訪れたことが重要であり、赤ちゃんが亡くなっても父母である事には変わりがないという視点で医療に携わっています。 続きを読む
保田春彦《白い風景(2)》 2004年 Photo:上野則宏
妻の遺作と生きる:保田春彦
日曜美術館で「彫刻家 保田春彦~生老病死のアトリエ~」を見た。保田晴彦は日本の代表的な彫刻家で、金属を使った大きな抽象モニュメント作品で知られていた。その保田の作品はイタリア人であり、美術家であった妻シルヴィアの死がきっかけに大きく変わる。木彫の「白い風景」シリーズはシルヴィア夫人と歩いたイタリアの建築をモチーフとしているが、同じアーティストの作品と気が付かないほど暖かく、保田の抽象彫刻にピンとこなかった私も気に入っている。
シルヴィアは保田とフランスで出会った。シルヴィア自身もアーティストであったが、結婚後、家族のことを第一に考え、創作の表舞台から退いたが、家事の合間をぬって、膨大な数のデッサンやコラージュを行っていた。これを保田はシルヴィアの死後発見し、影響を受けたという。それが、白い風景シリーズであり、その後始めた裸婦のデッサンシリーズでもある。
しかしシルヴィアさんの作品の中にブロンズ作品が数店あるのを見て、保田がシルヴィアさんが作品を製作していたことは知っていたと感じた。ブロンズは鋳物部分を外部に発注しないといけないので、知らずにいる事は難しいし、そこまで秘密に製作する必要もないのではないか。保田はシルヴィアさんの製作活動をうすうす知っていたが、特に興味を持っていなかったのではないか。ところが死後、非常に膨大な素晴らしいスケッチを発見して、シルヴィアさんが結婚生活中に犠牲にしてきた才能や、それに気が付かなかった自分と対峙したのではないかと感じた。保田は言う「シルヴィアには『あなたは人を描いても抽象をやる人の独特な直線で描くのね』と言われていた。今の私の作品を見たら『結構やるじゃない』と言ってくれるだろう。ざまを見ろ、と言いたいくらいだ。だから今、今の私の作品はシルヴィアとの共同作業だといえる。」保田は死者との対話の中で死者の作品に影響を受け続けている。
余談になるが保田さんは私が武蔵美時代に共通彫塑でお世話になったことがある。偏屈なおやじだと思ったが、今でもかなり偏屈だ。 続きを読む
その歌を初めて聞いたのは以前から非常に好きだった映画、「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」の挿入歌としてでした。このミュージカル仕立ての映画の中の歌のひとつ、「愛の起源」の歌詞は、
古代人間の本来の姿は二人が一対に融合した形をしており、4本の手、4本の脚を持っていた。当時の人間は非常に気高く力強く、神に挑戦するほどであった。 それを冒涜と怒ったゼウスは稲妻をもって二人を切り離す。以後、人間は再び「全き」ものとなるべく、失われた半身を求め続け、その気持ちが愛の起源なので ある
といったようなストーリーで、エミリー・ハブリーによるアニメーションが印象的でした。
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