喪のジュエリー:ジェットジュエリーとヘアージュエリー


ビクトリア女王:黒いドレスにジェットの装飾が施されている

9月3日、私は勉強も兼ねて、数年ぶりにジャパンジュエリーフェアを見に行ってきました。そこで、ジェットジュエリーを展示しているブースを発見し、思わず立ち寄る事になりました。ジェットのジュエリーは博物館などで見たことはあるものの、手に取るのは初めて、初めて間近に見て、触れて、その重量感や質感を堪能する事になりました。

私が初めてジェットジュエリーの事を知ったのは、数年前に、講演のために「故人の体の一部を身に着ける」事の歴史的な変遷を調べていた時の事でした。
ジェットは日本では黒玉と呼ばれるもので、地中深くに堆積した植物が化石化したもので、それは軽く、あくまで濃い漆黒の黒い宝石。質感はメノウや象牙をイメージしていただくとよいでしょうか。ジェットは研磨により非常に美しい艶を持ち、またその艶が長持ちすることで知られています。

ジェット製のブローチ

イギリスでは18世紀、ビクトリア女王時代に「喪のジュエリー(Mourning Jewelry)」と言うものがずいぶん流行したそうです。イギリスのビクトリア女王は、最愛の夫アルバート公を1861年に亡くすと深く悲しみ、長い喪の期間を過ごします。それは1887年、ビクトリア女王の即位50周年に「喪服の緩和令」が出されるまで25年間の長きにわたったのです。
この期間中、女王は喪服で過ごし、また、謁見する人にも喪にふさわしい服装をすることを求めました。当時の女王は女性たちのファッションリーダーでもありましたから、その女王が長い喪に服する事で「喪に服する事が女性の美徳」であるという風潮を生み出し、それにふさわしいジェットで出来た黒い宝石のジュエリーが流行したのです。

髪の毛をアレンジして美しい絵を描いたブローチ

又、この時代には、故人の髪の毛を使ったジュエリーも流行したと言われています。ビクトリア女王もアルバート公の髪の毛を手元に置いていたと言われています。当初は簡単に束ねた髪の毛をロケットのようなものに入れていたと言われていますが、のちには髪の毛を精緻に織物のように編みこんだもの、髪の毛を用いて絵を描いたものなど、工芸的な要素も取り入れられ、非常に美しい物も現れてきました。

肉体が死を迎え、火葬にしても土葬にしても、その現世の物的存在が失われる時、人は何かその一部を手元に置いておきたいと感じるのでしょうか。故人の記憶は、多くの人が証言するように、そして残念なことに、薄れがちです。その人がこの世にいた事を、より鮮明に感じるために、遺された者は故人の存在した証を求めるのでしょうか。故人の遺した物は、遺された者と逝った者がまだつながっていると感じる気持ちを助けてくれるのでしょうか。ビクトリア時代の「喪のジュエリー」はそういった気持ちが普遍的なものである事をうかがわせます。
当時の人々は、故人の肉体の一部を最も美しい形で遺すメモリアル・ダイヤモンドの事をを知ったら、どう思うのでしょうか。

 

肉体が死を迎え、火葬にしても土葬にしても、その現世の物的存在が失われる時、人は何かその一部を手元に置いておきたいと感じるのでしょうか。故人の記憶は、多くの人が証言するように、そして残念なことに、薄れがちです。その人がこの世にいた事を、より鮮明に感じるために、遺された者は故人の存在した証を求めるのでしょうか。故人の遺した物は、遺された者と逝った者がまだつながっていると感じる気持ちを助けてくれるのでしょうか。ビクトリア時代の「喪のジュエリー」はそういった気持ちが普遍的なものである事をうかがわせます。
当時の人々は、故人の肉体の一部を最も美しい形で遺すメモリアル・ダイヤモンドの事をを知ったら、どう思うのでしょうか。

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